CFスタートアップパートナーズ

2026新春特大号
CVC投資戦略研究会
Monthly Report

Contents

  • 巻頭言 ~金融審議会の最新レポート、株式等の募集規制緩和の動向~
  • 今月の注目スタートアップインタビュー「まちコイン」
  • 今月の注目スタートアップインタビュー「株式会社dozo」
  • 豆知識『2026年 CVCが勝ち抜く“新領域” ー AIを冷やす、宇宙で作る、そして実装まで走り抜く』

巻頭言 ~金融審議会の最新レポート、株式等の募集規制緩和の動向~

株式会社CFスタートアップパートナーズ
代表取締役出縄 良人(公認会計士)

1 有価証券の募集規制の緩和の概要

2025年12月26日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書が公表されました。今回の報告の目玉は「スタートアップ企業等への資金供給の促進」を目的とした発行時開示規制の大胆な緩和策です。 金融商品取引法では、50人以上に対する取得勧誘を伴う有価証券の発行、すなわち「募集」を行うためには、原則として「有価証券届出書」の届出及び開示が義務付けられています。ただし1億円未満の募集については、これが免除されており、有価証券通知書を管轄財務局に提出すれば足りるとされています。今回の金融審議会のレポートでは、有価証券届出書が免除される募集の上限を1億円未満から5億円未満に拡大する規制緩和策が提言されています。 非上場会社がVCやCVCから資本調達する場合、金融商品取引法では「私募」と定義される、50人未満への取得勧誘が基本です。私募の場合、有価証券届出書の届出は不要で、金額の上限なく資金調達が可能です。そこで非上場会社のエクイティファイナンスは「私募」で行われることが通常となっているのです。「募集」の典型的な形態は、金融商品取引所(1999年までの店頭売買有価証券市場を含む)への新規上場時に行われるIPO(Initial Public Offering)や上場後のPO(Public Offering)です。非上場会社においては「募集」による調達は、一般的な方法とは考えられてこなかったのが実際のところです。

2 非上場株式等の募集制度の変遷

歴史的には1997年以降、日本でも非上場株式の募集について法制度が整備され、以下の変遷により、進化してきました。

① 非上場株式の投資勧誘解禁に伴う証券会社の募集取扱(1997年~2000年)  1997年、金融ビッグバンの一環として、成長志向の中小企業にリスクマネーの供給を促すことを目的に、それまで証券会社に全面的に禁止されていた非上場株式の投資勧誘が解禁されました。同年、私が創業したディー・ブレイン証券では、非上場株式の発行流通市場としてVIMEXを創設。非上場株式の募集取扱を開始しました。非上場株式の投資勧誘にあたっては、有価証券届出書またはこれに準じた「会社内容説明書」による開示を行うべきこととされました。  この際、有価証券届出書の免除要件が5億円未満から1億円未満に改められています。これは証券会社に非上場株式の投資勧誘を解禁するにあたり、投資家保護を図るべく、法定開示による投資勧誘の範囲を広げることが趣旨であったと考えられます。一方、1億円未満の募集については、日本証券業協会の規則により新たに「会社内容説明書」の書式が定められ、これを目論見書として利用することが義務付けられました。「会社内容説明書」は法定開示書類ではありませんが、直近2年間の財務諸表に公認会計士監査が義務付けられており、「有価証券届出書」に準じた書式となっていました。  なおVIMEXにおいて募集により資金調達を行った企業は11社、調達総額は8億7千万円でした。

② グリーンシート市場における募集取扱(2000年~2015年)  2000年の証券取引法改正では、「店頭取扱有価証券制度」が設けられるとともに、日本証券業協会において「グリーンシート銘柄」制度が発足。VIMEX銘柄は全てグリーンシート銘柄に移管され、VIMEX市場も日本証券業協会が運営するグリーンシートに引き継がれました。会社内容説明書は、グリーンシート銘柄としての指定初年度に限り、財務諸表開示は直近1期のみで良いこととなり、数値計画を伴う事業計画を併せて開示することとなりました。グリーンシートでは、2010年までの約10年間に合わせて151社が募集による資本調達を行っていますが、ディー・ブレイン証券はこのうち140社の募集取扱を主幹事(代表取扱会員)として行っています。なお、151社のうち有価証券届出書の届出により1億円以上の募集を行った事例は5社に留まっています。

③ 株式投資型クラウドファンディングによる募集取扱(2015年~)  グリーンシート制度は、流通市場を伴うことからインサイダー取引規制等に対応すべく上場有価証券に準じた開示負担が中小企業には重すぎるとの指摘から、2011年の金融審議会で廃止が決定。これに代わる制度として2015年の金融商品取引法改正で生まれたのが「株式投資型クラウドファンディング」(以下「ECF」)制度です。同年に設立した当社当社CFスタートアップパートナーズの前身のDANベンチャーキャピタルでは、2017年にECF専業の金融商品取引業者「第一種少額電子募集取扱業者」として登録し、ECFプラットフォームの運営とECF銘柄の株式の募集取扱を開始しました。その後、当社グループでは2024年にECF事業を売却していますが、ECFではNO.1のシェアで募集を行っているのはFUNDINNOでは、これまでに300社を超える非上場会社について200億円超のエクイティファイナンスを支援しています。  ECF制度ではグリーンシートの反省を生かして、中小企業の開示負担を軽減すべく、1億円未満の募集については開示不要とされています。ただし、投資家のリスクが高まることから一人当たり1社につき原則50万円(保有純財産及び年収によって200万円まで拡大可)を上限とする規則となっています。

④ DPO(Direct Public Offering)による自己募集(2024年~)  当社が手続きの体系化及びドキュメントの標準化を進めたことで、近年、急速に事例が伸びてきているのがDPOです。グリーンシート及びECFで「拡大縁故募集」として行ってきたノウハウを発行会社に提供し、会社の周囲に対して需要調査を行った上で、事業目的に賛同する会社法が期待する本来の株主を、金融商品取引業者の仲介なく、自ら直接募っています。DPOサポートとして当社がノウハウ提供のサービスを開始した2024年11月から2025年1月までの累計サポート先数は28社。募集総額は7億8千万円となっています。DPOにおいても有価証券届出書の必要がない1億円未満の募集を行っており、管轄財務局に有価証券通知書を提出しています。目論見書としては当社の標準書式である「新株式発行概要書」をご使用いただいています。証券情報はほぼ有価証券届出書と同一の書式。企業情報については、会社が用意する事業計画にリスク情報を加え、これに届出書に準じた株式の状況、経理の状況として会社法に基づく計算書類を添付しています。

3 スタートアップのエクイティファイナンスへの影響

今回、開示規制の緩和により有価証券届出書の免除要件が5億円未満とされると、1997年以前の制度に戻ることを意味します。米国では、SECの登録免除基準が1,000万ドル(約15億円)、欧州でも目論見書の公表免除基準が800万ユーロ(約14億円)であることと比較すると、これでもまだ厳しい水準です。しかしながら、上記のうち現在、運用が行われている③のECF及び④のDPOについては、今後の発展にプラスとなると考えられます。  成長志向の中小企業にとって、VCやCVCからの調達のほか、募集による調達を含めて多様なファイナンス手法の選択肢が広がることは、ありがたいことです。一方、募集によって株主が増えることを懸念する声もあります。特にVCやCVCにとっては、株主間契約の締結が困難であること等が原因となって、次のラウンドでの参加の障害となることがあると指摘されているところです。  その点、当社がサポートしているDPOでは、多くの場合、種類株式により募集を行っています。特にVC・CVCからの調達を予定している企業では、次回ラウンドで一定金額以上の調達を行うことを前提に、金銭を対価とする取得条項を置くことで、VC・CVCの参加の障害とならないよう工夫しています。DPOでは、最低投資単位を50万円としていることもあり、一人当たりの平均投資金額は100万円前後。届出書不要の範囲が5億円まで拡大することで、DPOとVC・CVCからの調達とを組み合わせた調達の幅が広がり、非上場会社の成長を加速させる上において大いにプラスとなるでしょう。VC・CVCの投資先においては、DPOを活用した追加資金調達を検討しやすくなると考えられます。

4 有価証券通知書の開示制度化

今回の金融審議会のレポートでは、有価証券通知書の位置づけを変える提言もされています。従来、有価証券通知書の目的は、監督当局が有価証券届出書の必要な募集に該当しないことを確認することを目的としていました。したがって書類は財務局内に保管されるのみで、外部に開示されることはありませんでした。ところが今回のレポートでは、5億円未満まで届出書不要の募集が拡大することに鑑み、通知書及びその添付書類をEDINETで投資者に開示することが提言されています。開示される情報には計算書類を含むものとし、会計監査人設置会社や監査役設置会社の場合は監査報告書を添付する提案となっています。当方が指導するDPOにおける「新株式発行概要書」はその要件を満たすものであると考えられますが、財務局による実質的な審査が行われるか否かなども含めて、今後、健全なエクイティファイナンスが中小企業に広がる仕組みとなることを期待したいところです。

今月の注目スタートアップインタビュー①「まちコイン」

経済発展で薄れた“つながり”を取り戻す──「まちコイン」が描くソーシャル・キャピタル再生とは

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本記事では、「まちコイン」代表の古屋氏に、国際機関での原体験から着想を得た「ソーシャル・キャピタル(人間関係資本)の再生」という壮大なコンセプトがどのように事業へと発展していったのか、その独自の仕組みである「カスタマーファンディング」の全貌、そして地域社会に新たな繋がりと強靭さを生み出す同社の取り組みと、グローバルな視座で描く今後の展望について伺っています。

※本インタビュー企画・記事執筆は株式会社CFスタートアップパートナーズよりEXPACT株式会社が委託を受け、実施しております。

起業の背景と「ソーシャル・キャピタル」への想い

本日はお時間をいただき、ありがとうございます。

古屋氏:こちらこそありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

-まず、これまでのご経歴と、なぜ「まちコイン」というユニークなサービスを着想するに至ったのか、その背景について詳しくお聞かせください。

私の経歴は少し複雑で、一言で言うと「ぐちゃぐちゃ」しています(笑)。もともとは早稲田大学の法学部を卒業した後、アメリカのピッツバーグ大学大学院へ渡り、公共政策学や国際関係論の修士号を取得しました。帰国後は、日本国際交流センターという公益財団法人に就職しました。

そこは世界中のVIPや政府要人との太いパイプを持つような組織で、私はそこで国際会議の運営や、政策提言のためのペーパー作成などに従事していました。 人生を変える転機となったのは、1998年頃にバンコクで開催されたある世界会議での出来事です。当時、私はまだ駆け出しの書記として、世界中の権威ある学者や政策立案者と同じテーブルに座っていました。そこで議論されていたのが、「経済発展と人間関係資本(ソーシャル・キャピタル)」の相関関係についてでした。 ある学者がこう発言したのです。「経済が発展し、国が豊かになるにつれて、人と人との繋がり、すなわちソーシャル・キャピタルが減少し、それが社会に深刻な悪影響を与えている。これは先進国特有の病理であり、大きな課題だ」と。 すると、タイの最高学府であるチュラロンコン大学の教授が手を挙げ、「待ってください」と反論しました。「それは先進国だけの問題ではありません。我々のような発展途上国でも既に起きている現象であり、全人類が取り組むべき喫緊の課題です」と。 この言葉に、私は雷に打たれたような衝撃を受けました。経済発展は本来、人々を幸せにするための手段であるはずです。しかし現実には、経済が成長すればするほど、人間性が失われ、関係性が希薄になり、結果として人々が孤独や不幸を感じるようになるというシナリオが進んでいたのです。当時まだ20代だった私は、「こんな優秀な人たちが集まっても解決策が出ないなら、いつか自分が何とかしてやる」という想いを胸に刻みました。それが全ての始まりです。

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-その後、どのようにしてIT業界、そして現在の事業へと繋がっていくのでしょうか?

2000年というミレニアムの節目に、私は「武者修行」に出ることを決意しました。当時はWindows 95の登場からインターネットが爆発的に普及し始めた時期です。私は、インターネットは単なる情報伝達ツールではなく、社会のあり方そのものを変える「ソサエティ」的な基盤になると直感しました。そこで、新しい時代の人間関係の作り方を模索するためにIT業界へ飛び込んだのです。

最初は6人しかいないベンチャー企業に入り、サイバーエージェントやオプト(現・デジタルホールディングス)といった、今では大企業となった会社の方々と共に、日本のインターネット黎明期を駆け抜けました。文字通り寝袋で寝泊まりするような激務の日々でしたが、そこには熱気がありました。その後、私はさらに別のキャリアを積むために、日本ユニシス(現BIPROGY)などで大規模なプロジェクトに関わる一方で、特に力を入れたのが「中小零細事業者」の支援でした。 なぜ中小企業かと言うと、先ほどの「経済発展のパラドックス」の煽りを最も受けているのが彼らだからです。大規模小売店舗の進出によって商店街がシャッター街化したり、系列化の圧力で独自性を失ったり。効率化の名の下に、顔の見える関係性が排除されていく現実に直面しました。そこで、商店街活性化事業や、大手運輸会社と組んだ高齢者支援などを行いながら、 「経済発展で失われた繋がりをどう取り戻すか」を2年ほど考え続けました。

そこで辿り着いた皮肉な結論が、「経済的メリットで人を釣り、結果として人間関係を取り戻す」という逆転の発想でした。「まちコイン」は、一見するとお得な商品券システムですが、その本質は、かつての日本にあったような「持ちつ持たれつ」の関係性を、現代のテクノロジーで再構築する試みなのです。

コアプロダクト「まちコイン」が提唱する“カスタマーファンディング”

-「まちコイン」の具体的な仕組みと、古屋様が提唱する「カスタマーファンディング」について詳しく教えてください。

「まちコイン」は、クラウドファンディングのようでいて、全く異なる哲学で設計されています。私はこれを「カスタマーファンディング」と呼んでいます。プロセスは大きく4つのステップに分かれます。 ステップ1は、事業者(お店)によるプロジェクトの立案です。例えば「パン屋の入り口にスロープを付けたいから資金が必要」といった具体的な目的を掲げます。銀行から借りるのではなく、自分たちのお客さんに助けを求めるのです。 ステップ2がこのサービスの最大の特徴ですが、支援の依頼は「不特定多数」には行いません。お店側が「この人なら応援してくれるだろう」「この人とは良い関係が築けている」と判断した特定のお客さんにだけ、招待状を送るのです。クラウドファンディングが「群衆(Crowd)」から資金を集めるのに対し、私たちは「顧客(Customer)」との関係性をベースにします。 ステップ3で、招待されたお客さんが支援を行うと、その対価として「自社専用のプレミアム付きデジタル商品券」が発行されます。例えば1万円支援すれば、1万1千円分使えるといった形です。お店側は先にキャッシュ(資金)を調達でき、お客さんはお得に買い物ができ、かつ将来的な来店が約束されます。さらに、決済から消込処理まで全てアプリ上で完結します。

そしてステップ4として、アプリ内にはメッセージ機能が実装されています。支援してくれたお客さんに「おかげでスロープができました」と報告したり、逆にお客さんから「応援しています」と声をかけたり。このコミュニケーションこそが、単なる金銭のやり取りを超えた「共感」を生み出します。

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-なぜ「招待制」や「既存顧客」にこだわるのでしょうか?

そこには、事業者側の「目利き力」が問われるからです。最近は、お客さんの顔が全て「お札」に見えてしまうような商売も増えていますが、そのような発想では長続きしません。「あのお客さんのお子さん、最近怪我してたけど大丈夫かな?」と気遣えるような関係性こそが、商売の、ひいては地域社会の基盤です。 「まちコイン」は、事業者が自分のお客さん(ペルソナ)をどれだけ理解しているか、どれだけ愛されているかを可視化する「試金石」でもあります。面倒な人間関係を避けて効率だけを求める事業者には、このサービスは向きません。しかし、真剣に顧客と向き合う事業者にとっては、これ以上ない強力なロイヤルティ形成ツールとなります。

競争優位性と、社会に実装される「体験価値」

既存の類似サービスとの違いや、ユーザーが得られる価値についてどうお考えですか? 技術的な面で言えば、このビジネスモデルに関しては特許を取得しており、日本国内では他社が容易に真似できない参入障壁を築いています。しかし、それ以上に重要なのは「体験価値」の質です。

例えば、牧之原市で竜巻被害があった際、「まちコイン」を通じて支援の輪が広がりました。災害のような有事の際、人は「何かしたい」と思いますが、どうすればいいか分からない。「まちコイン」は、その「想い」を具体的な「行動」へと変換するプラットフォームとして機能しました。

ユーザーが得られるのは、単なる「割引」という経済的メリットだけではありません。「自分がこのお店を支えた」「私の支援であのスロープができた」という当事者意識です。お店のことを「他人事」ではなく「自分事」として捉えられるようになると、お店への愛着、ひいては地域への愛着が湧き、孤独感が薄れます。

かつての日本には、当たり前のように存在した「お互い様」の精神や、地域コミュニティのセーフティネットがありました。「まちコイン」は、現代社会で失われつつあるその「温かみ」を、デジタルという手段を使って再生させる装置なのです。

-導入する店舗側には、どのような変化が見られますか?

導入店舗の多くは、元々地域で愛されている「カリスマ性」のあるお店や、業界全体の未来を憂いている視座の高い経営者の方々です。例えば、あるハム工場の経営者の方は、自身のファンを巻き込むだけでなく、後進の育成にも力を入れており、「まちコイン」をそのエコシステムの一部として活用しようとしています。 導入によって、店舗は「資金」と「将来の売上」を得るだけでなく、「誰が本当に自分たちを応援してくれているのか」という顧客リスト(資産)を手に入れます。これは、広告費をかけて新規顧客を追いかける従来のマーケティングとは一線を画す、持続可能な経営基盤となります。

グローバル展開と「修正資本主義」へのビジョン

-今後の展望と、世界に向けたビジョンをお聞かせください。

短期的には、「まちコイン」という名称が、単なる地域通貨ではなく、「顧客との関係性に基づいた資金調達とファン作りの仕組み」として正しく認知されることを目指しています。現在、宮城県某市や静岡県牧之原市など、志を共にする自治体やリーダーたちとの連携が進んでおり、ここから成功事例を積み上げていきます。

また、新たに「目利き力」がまだ弱い事業者向けに、より広く支援を募れる「DPO(Direct Public Offering)」的な、「公開形カスタマーファンディング」機能もリリースしました。これにより、より多くの事業者がまちコインに参加しやすくなります。

長期的、そして国際的なビジョンとしては、日本発の「修正された資本主義(Revised Capitalism)」のモデルケースを世界に提示したいと考えています。

GDPや株価の成長だけを追い求め、格差と孤独を生み出し続ける今の資本主義には限界が来ています。「まちコイン」が目指すのは、自社だけが巨大化してIPO(新規上場)で大金持ちになることではありません。それは既存の資本主義のゲームです。

そうではなく、私たちのような中小企業や個人商店が、地域の人々と支え合い、経済的な豊かさと精神的な幸福を両立できること。そのモデルを証明したいのです。

もし海外で、私たちの特許や仕組みを真似して、同じような「優しさの経済圏」を作る人たちが現れたなら、それは大歓迎です。私たちの会社が海外進出するよりも、この「考え方」が世界中に広まり、結果として世界中で孤独な人が減り、幸せな人が増えること。それが、私が1998年のバンコクの会議から25年以上追い求めてきた答えであり、最終的なゴールです。

-最後に、読者へのメッセージをお願いします。

私たちは、AIやDXといった最新技術を否定するつもりはありません。むしろ、面倒な事務作業やシステム管理はAIに任せ、人間は人間にしかできない「心を通わせること」「相手を思いやること」に時間を使うべきだと考えています。 「まちコイン」は、最新のテクノロジーを使いながら、最も人間臭い「繋がり」を取り戻すための挑戦です。効率化の波に疲れた事業者の方、地域の未来を本気で考えている自治体の方々と共に、新しい時代の「当たり前」を作っていければと思っています。

本日は熱い想いを語っていただき、ありがとうございました。「経済」と「幸福」を再接続するという貴社の挑戦は、これからの社会にとって重要な羅針盤になると確信しました。

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運営会社情報

【会社名】まちコイン株式会社

【HP】https://m-coin.biz/login

【代表】 代表取締役 古屋 亮太

【所在地】東京都杉並区荻窪5-28-16-303

【設立日】 2019年4月19日

【お問い合わせ】https://tayori.com/form/071a3658a504b338fd81e0c41564a6552b510e1c

企画/監修:出縄(株式会社CFスタートアップパートナーズ) 取材/執筆 難波(EXPACT株式会社

今月の注目スタートアップインタビュー②「株式会社dozo」

300年ぶりのイノベーションで、日本茶を世界の「嗜好品」へ。dozoが仕掛ける“ティーアルコール”という新常識

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本記事では、株式会社dozoの代表 三浦弘平氏に、お茶の名産地である静岡出身、また海外での経験から得た独自の視点から着想を得た「お茶×お酒(ティーアルコール)」というコンセプトがどのように事業へと発展していったのか、その製品開発の裏側、そしてグローバル市場での勝算と、耕作放棄地の再生を目指す同社の壮大なビジョンについて伺っています。 dozoはCFスタートアップパートナーズが運営するまきチャレ2025で静岡ベンチャースタートアップ協会賞(SVSA賞)を獲得した、今静岡で最も注目されるスタートアップの一つです。

※本インタビュー企画・記事執筆は株式会社CFスタートアップパートナーズよりEXPACT株式会社が委託を受け、実施しております。

dozoのミッション・誕生の背景、そして「ティーアルコール」へのピボット

-本日はお時間をいただき、ありがとうございます。

三浦氏:よろしくお願いします。

-まず、dozoの事業概要と、起業に至った背景についてお聞かせください。

私はもともと静岡県の出身なのですが、実家がお茶農家であるとか、生まれた時からお茶作りに触れてきたというわけではありません。起業の出発点は、「グローバル市場において、日本人の特性を活かしながら戦うためにはどのようなビジネスが勝てるのか」という、純粋なビジネス視点での問いでした。その答えを探す中で着目したのが、地元の資産である「お茶」だったのです。

当初は自分でお茶のECサイトを立ち上げ、国内向けにシングルオリジン茶葉を販売していました。しかし、そこで大きな壁にぶつかりました。「味の差別化」の難しさです。お茶の世界には、茶農家や茶商といったプロフェッショナルがいますが、彼らが良いお茶を判断する基準は、味だけでなく、茶葉の形状や水色、外観など、極めて玄人好みな要素が含まれています。 一方で、一般の消費者に300円のお茶と3000円のお茶をブラインドテストで飲み比べてもらっても、その価格差に見合う味の違いを実感してもらうことは非常に困難でした。昔からお茶に慣れ親しんでいる静岡の人ですら違いが分からないことがある中で、文化圏の違う海外の方に「このグリーンティーが美味しい」と認識してもらい、高付加価値で販売するのは「激ムズ」だと痛感しました。

そこで、単にお茶をそのまま飲むスタイルを押し付けるのではなく、海外の食文化や嗜好に合わせたアプローチが必要だと考えました。2020年頃から海外で成長し始めていた「ティーアルコール(お茶とお酒の組み合わせ)」やお茶に甘みや香りを添加する文化に着目し、2回、3回と事業のピボットを経て、現在の事業モデルに辿り着きました。

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-社名の「dozo」にはどのような思いが込められているのでしょうか?

実は、深い哲学的な意味があるわけではないんです(笑)。ただ、日本の商品を海外に紹介したい、日本のことをもっと知ってもらいたいと考えたときに、短くて覚えやすく、かつ日本らしさが伝わる言葉として「dozo(どうぞ)」が良いのではないかと考えました。海外の方に日本のホスピタリティや、ものを差し出す時の文化的なニュアンスをシンプルに伝えられる言葉だと思っています。起業当初から海外展開を前提としていたため、言語の壁を超えやすいネーミングを意識しました。

300年ぶりのイノベーションと製品の強み

-現在の主力事業と、具体的なプロダクトについて教えてください。

現在は、お茶の事業をメインに展開しており、特に「お茶×お酒」の領域に注力しています。第1弾として展開しているのが「ZEN TEA BREW」です。これは、お茶とお酒を組み合わせて楽しむためのDIYカクテルキットで、自宅で手軽に本格的なティーカクテルを作ることができます。 第2弾、第3弾としては、ティーバッグ型のモクテル(ノンアルコールカクテル)や、茶葉そのものを食べるような食品物流に近い事業、いわゆる「生茶葉」を活用した食品展開なども進めています。

私たちの目標は、「お茶に300年ぶりのイノベーションを起こし、グローバルでの価値を高めること」です。 日本の茶業界では、長らく「お茶はそのまま飲むもの」という美徳がありましたが、世界を見渡すと8割以上の国々が、お茶に砂糖やスパイス、ミルク、フルーツの香りを足して楽しんでいます。つまり、グローバルスタンダードにおいて「添加すること」は決して邪道ではなく、むしろ正解に近い楽しみ方なのです。 私たちのような小さなスタートアップが世界で存在感を出すためには、既存の延長線上ではない「もうワンフック」が必要でした。それが「ティーアルコール」です。静岡の茶業研究センターの方に聞いても「見たことがない」と言われるほど、日本では未開拓の領域でした。

-機能面や科学的なアプローチについてもこだわりがあるそうですね。

はい。単に味の組み合わせが面白いというだけではありません。実は、お茶をお酒で抽出することによって、カテキンなどの有効成分の抽出効率が水やお茶に比べて約1.4倍向上するということが専門機関の研究で明らかになっています。 つまり、お茶とお酒の相性は、味覚的な楽しさだけでなく、成分摂取の観点からも理にかなっているのです。

「美味しくて、楽しくて、健康にいい」そんな次世代のドリンクとして、ティーカクテルを提案しています。今回の「まきチャレ」で提案させていただいた商品の一つに、緑茶とゆず、そして和山椒を組み合わせたものがあります。これらは単なるフレーバーティーではなく、海外の調理法や味覚トレンドに合わせ、日本独自の素材を掛け合わせた新しい体験を提供することを目指しています。

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私はお茶農家として働いて5年目になりますが、農業全般に言える課題として、栽培・収穫した「モノ」だけを販売してしまっている現状があります。 しかし、農業のポテンシャルはそれだけではありません。海外のワイナリーが行っているような「ファームツアー」や、その土地の空間、土、空気感、そして農家という「クラフトマン(職人)」のストーリーそのものに価値があります。 収穫された農作物だけでなく、その背景にある空間や体験を含めて「全方位」で価値を上げていくこと。消費者は単にモノを消費するだけでなく、体験に価値を見出し始めています。私たちも「体験を提供する」ことを重視し、お茶を飲むという行為を、その背景にあるストーリーや産地の空気感ごと味わうような体験へと昇華させていきたいと考えています。

グローバル市場への挑戦と課題

-海外展開の現状と、ターゲットとしている国について教えてください。

ターゲットは主にアメリカ、インド、シンガポールです。 アメリカに関しては、2025年11月14日、15日の2日間、静岡市長の推薦のもとロサンゼルスで開催されたJAPAN FOOD EXPOに参加しました。2日間計10時間で30万円の売上を上げることができました。カクテル発祥の地であるアメリカでは、日本に比べ商品の説明が容易で、多くのディストリビューターからも引き合いを頂きました。アメリカ進出がより具体的になる非常に収穫のある展示会でした。今後はさらに単なる越境ECではなく、現地にEC拠点を構築し、現地発送が可能な体制を整えることで、販売を本格化させていきます。 インドとシンガポールについては、これから年内にテストマーケティングを実施する段階です。

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-海外展開を進める中で、どのような課題を感じていますか?

課題は山積みですが(笑)、やはり「味覚のローカライズ」と「販路開拓」です。 「味覚」や「美味しい」と感じる基準は、国によって異なりますし、もっと言えば人それぞれです。現地の消費者が何を求めているのか、どのようなフレーバーが好まれるのかをキャッチアップし、製品に反映させるチューニング作業は常に必要です。 また、私たちは国内市場よりも海外市場に販路を求めているため、それぞれの国の法規制や物流事情、商習慣に合わせたアプローチが求められます。 ただ、こうした課題があるからこそ、そこにビジネスチャンスがあるとも考えています。日本茶をそのまま輸出するのではなく、現地の文脈に翻訳して届けることこそが、私たちの介在価値だと信じています。

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まきチャレ2025への参加とSVSA賞受賞

-今回、まきチャレにエントリーされたきっかけは何だったのでしょうか?

正直に言えば、最初は賞金が魅力的だったというのもありますが(笑)、真面目な話をすると、静岡県牧之原市という日本屈指のお茶の産地との繋がりを深めたかったからです。 牧之原はお茶の一大産地であり、多種多様な農家さんが素晴らしいお茶を作っています。静岡のお茶を使って世界で勝負する以上、牧之原の茶葉は欠かせません。今回、まきチャレを通じて牧之原の方々に私たちの製品や取り組みを知っていただき、連携を深める機会になればと考えました。 

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-静岡ベンチャースタートアップ協会(SVSA)の賞も受賞されましたね。

大変嬉しいです。まきチャレは今回記念すべき回ということもあり、静岡県内での認知度や注目度が非常に高いビジネスコンテストです。他のコンテストにも出場していますが、マキチャレに関しては地元の方々からの反響が段違いでした。「まきチャレ頑張ったね」「どうだった?」と声をかけていただくことが多く、地元からの期待を感じています。この受賞をきっかけに、さらに地域との連携を加速させていきたいですね。

DOZOが描く未来と「変態」であれという哲学

-今後の展望と、具体的な数値目標について教えてください。

お茶の事業に関しては、明確な目標があります。「売上20億円」を達成することです。 なぜ20億円かというと、試算上、私たちが20億円規模の売上を作ることで、静岡県内にある耕作放棄地の約5%を経済的に再利用・再生できる計算になるからです。 現在、お茶の生産量は最盛期の4分の1程度まで減少しており、茶農家が儲からないという構造的な課題があります。ちまちまとやっていては間に合いません。なるべく早く事業をスケールさせ、茶業にとってポジティブなインパクトを具体的な数字として出したいと考えています。

農業は本来、とても楽しい仕事です。私も東京やロサンゼルスで働いてきましたが、戻ってきて農業に携わった時、労働する意欲や喜びをダイレクトに感じられる環境だと感動しました。これからのAI時代において、手足を動かして何かを生み出す農業は、非常にクリエイティブで価値のある仕事になるはずです。お茶や農業が「儲かる」「かっこいい」職業になるような世界観を作っていきたいです。

-サービス開発において大切にされている価値観や哲学はありますか?

あえて言葉にするなら、「ユニークであること」、もっと言えば「変態であれ」ということでしょうか(笑)。 英語で言う「Think outside the box(常識の枠を超えて考える)」に近いですが、「普通」であることは、今の時代においてリスクですらあると思っています。 私は以前、洗濯代行とコインランドリー事業の経営もしていました。1970年代の高度経済成長期以前は、自営業者(個人事業主)と被雇用者(勤め人)の比率は、自営業者の方が圧倒的に多かったんです。しかし現代では、会社に勤めることが「普通」になっています。でも、その「普通」はここ数十年で作られた常識に過ぎません。 大多数の中に埋没して、既存の常識の中で生きるのではなく、ちょっと人と変わっていること、ユニークであること、何かに熱狂的にこだわっていること。そうした「変態性」こそが、新しい価値を生み出す源泉になると信じています。

お茶の飲み方を変えるという私たちの挑戦も、見方によっては「お茶に酒を入れるなんて」という非常識なものかもしれません。しかし、その「普通じゃないこと」を楽しめるかどうかが、イノベーションの鍵だと思っています。

-これから協業や競争が生まれる中で、どのようなパートナーシップを求めていますか?

「競争(Competition)」ではなく、「共創(Co-creation)」ができるパートナーです。 小さなコミュニティや縮小する市場の中で、既存のパイを奪い合うような競争には興味がありません。「あの社員よりあっちが優秀だ」と出し抜き合うようなマインドセットではなく、一緒に新しいマーケットを作り、パイそのものを大きくしていけるような気概を持った人たちと組みたいですね。 日本から飛び出して、世界という広大なフィールドで新しい市場を切り拓く。そんな未来を一緒に描けるパートナーや産業領域との連携を期待しています。

読者へのメッセージ

-最後に、読者や社会全体へのメッセージをお願いします。

「変態になりましょう」ですかね(笑)。 世の中は常に変わっていきます。今「普通」だとされていることも、時代が変われば普通ではなくなります。常識を疑い、自分の半径数メートル以内で起きていることや、自分のこだわりたい世界観に深く興味を持つこと。 誰かが定義した「顧客の課題」や「ペイン」を探すことに必死になるのではなく、自分たちの手で新しい「ペイン」や「欲求」を作り出すくらいの気概を持って、ユニークな存在であり続けること。それが、結果として世の中を面白くし、社会を良くしていくと信じています。 私たちdozoも、お茶の世界で「変態」であり続け、世界中を驚かせるような体験を届けていきます。

本日は熱いお話をありがとうございました!dozoが切り拓く新しい日本茶の未来、そして耕作放棄地の再生という社会課題への挑戦を心から応援しております。

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企業情報

【会社名】株式会社dozo(ドーゾ)

【代表】 三浦弘平

【設立日】2023年11月14日

【URL】 https://www.dozo-inc.com/

【所在地】 静岡県静岡市葵区伝馬町1-2 3F

【お問い合わせ】https://www.dozo-inc.com/contact

【事業内容】
クラフトティーカクテルキット事業

日本茶のブランディング、海外向け製品開発

海外ビーチウエディングオンラインプランニング事業

EC・D2Cの立案からサイトの構築・運営

デジタルマーケティング支援

企画/監修:出縄(株式会社CFスタートアップパートナーズ) 取材/執筆 難波(EXPACT株式会社

豆知識

2026年 CVCが勝ち抜く“新領域” ー AIを冷やす、宇宙で作る、そして実装まで走り抜く

代表取締役 髙地 耕平

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CVCは「未来」と「今期」の板挟みから逃げられない

CVCの現場で、最近いちばん重い言葉は何でしょうか。 「次は何に投資するのか?」と「それ、いつ成果が出るのか?」。

この二つを同時に突きつけられると、投資担当者は“未来”と“今期”の板挟みになります。

純粋なVCであれば「10年後のリターン」で説明できるかもしれません。しかし事業会社のCVCは違います。

今期の業績、事業部への貢献、中期経営計画との整合性、IRでの説明責任 。

だからこそCVCは苦しい。けれど同時に、外の変化を社内の論理に翻訳できる唯一の存在でもあります。

そんなタイミングで、2026年2月2日(米国時間)、SpaceXがxAIを買収することが発表されました。 評価額は約1.25兆ドル(約185兆円)。AIと宇宙インフラを一体化する構想は、もはや噂や観測ではなく、現実に動き出した巨大プロジェクトです。

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CVC担当者にとって重要なのは、「イーロン・マスクがすごい」という話ではありません。

この統合によって、どこに新しい産業需要が生まれ、その需要に対して自社はどこで勝てるのか。 そこを見抜き、投資テーマに落とし込めるかどうかです。

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結論から言えば、CVCの勝ち筋は正面突破だけではありません。 AIモデル開発やロケット開発に真正面から挑む必要はない。 勝ち筋は、彼らが作り出す“巨大な物理的な需要”に、日本企業の強みを差し込むことです。 生成AIは「ソフトの時代」から「インフラの時代」へ。 宇宙は「ロケットの時代」から「宇宙利用・周辺産業の時代」へ。 いま起きているのは、この二つの産業重心の移動です。

① AIインフラの“電気と熱”に差し込む日本の技術

―生成AI投資の本体は“モデル”ではない 生成AIが巨大化すると、真っ先に詰まるのはモデルそのものではありません。 電力と冷却(熱)です。

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xAIの大型計算基盤「Colossus」の拡張は、すでにギガワット級の電力・冷却需要を前提に語られています。さらに今回の合併発表において、マスク氏自身が「宇宙ベースのAI計算(space-based AI compute)」を明確なミッションとして掲げたことは重要なポイントです。

実際、SpaceXは軌道上データセンター衛星(Orbital Data Center Satellites)に関する申請をFCC(連邦通信委員会)へ行っていると報じられており、 「地上インフラの限界を宇宙で突破する」という発想は、すでに実装準備フェーズに入っています。

日本企業にとっての勝ち筋は、いわゆる「AIスタートアップに投資」ではありません。CVCが狙うべきは、AIが要求する物理制約を解く技術です。

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たとえば、データセンターのボトルネックは電力供給だけでなく、冷却(熱)と水・立地・設備更新の制約です。ここに、日本の強み(熱制御、素材、部材、製造品質、電源系)が刺さります。

なぜAI会社は自前でデータセンターを持つのか

CVC担当者が理解しておくべき本質は、「コスト削減」ではありません。 AI企業がインフラを垂直統合する理由は、AIの性能(Intelligence)そのものを左右するからです。 まず、計算の質がAIの賢さを決めるという点。

汎用クラウド(AWSやAzure)では、既存のサーバ規格やネットワーク構成に縛られます。 一方、自前インフラなら、通信頻度、メモリ配置、チップ間配線、光通信トポロジーまで、AIの学習に最適化した物理設計が可能になります。

この差は、同じGPU枚数でも「学習速度が数倍違う」「より巨大なモデルを扱える」といった形で露骨に現れます。 GoogleがTPUを作り、xAIが自社データセンターにこだわる最大の理由がここにあります。

次に、エネルギー効率が開発速度の上限を決めるという点。

AI開発のボトルネックは、GPUの数から「供給できる電力と冷却能力」へ移りました。

外部の電力会社やデータセンター事業者に依存していると、「増設は3年待ち」と言われた瞬間に、AIの進化は止まります。

自前で発電や冷却インフラを持てば、外部要因に左右されず、電力が許す限り最速でモデルを進化させられる。 これはAGI開発競争における生命線です。

そして三つ目が、データ主権とロックイン回避。

今後のAIは、テキストだけでなく、動画、ロボットのセンサーデータ、衛星観測など、ペタバイト級の情報を扱います。

これを他社クラウドに置くと、データ移動コストやセキュリティ要件が意思決定を縛り、事実上の“デッドロック状態”になります。

インフラを自前で持つことは、AmazonやMicrosoft、Googleといったプラットフォーマーに覇権を渡さないための防衛戦略でもあるのです。 要するに、AI会社にとってインフラを持つことは、 F1チームが「エンジンと車体を自社で作る」のと同じ。

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汎用エンジン(クラウド)を買って載せるチームは、 物理インフラまで含めて極限チューニングしたチーム(xAI+SpaceX)には、性能でも開発スピードでも勝てなくなります。 だからこそCVCが狙うべきは、「AIスタートアップ」そのものではなく、 AIを成立させる“電気と熱”の産業です。

② SpaceX‑xAI統合が創る“宇宙利用特需”

宇宙の話になると、ついロケットそのものに目が行きがちです。 しかしCVCの視点では、「ロケットに投資する」よりも、 ロケットが下げた輸送コストによって、どの周辺市場が立ち上がるかを見るほうが筋がいいと言えます。 打ち上げの経済性が変わると、衛星、観測、通信、そして「宇宙で作る」産業まで連鎖的に動きます。

Starshipの成熟とxAIとの統合は、宇宙需要の中心を「打ち上げ」から「運用」「利用」「製造」へと押し上げていきます。

この動きはマスク陣営だけではありません。 NVIDIAは、宇宙データセンターを目指すスタートアップStarcloudを公式に取り上げ、 H100 GPUを搭載した衛星の打ち上げが進んでいます。

また、Blue Originも、 ジェフ・ベゾス自身が「宇宙の方が地上より効率的にデータセンターを構築できる」と発言するなど、 軌道上データセンター技術や衛星ネットワーク構想を進めていると報じられています。 宇宙×計算(Space Computing)は、検討から実証へ進んだ不可逆トレンドです。

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ここで日本企業の勝ち筋は、やはり“周辺領域”にあります。 宇宙仕様の放熱、電源、耐環境パッケージ、製造プロセス、品質保証。 ロケット開発競争に入らず、宇宙利用のサプライチェーンを握りにいく。 これがCVCにとって、もっとも再現性の高い戦略です。

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まず、衛星コンステレーションの高度化です。Starlinkのような衛星網が普及すると、地上の通信、災害対応、物流、海洋監視などのサービスが“宇宙前提”になります。ここは日本の産業とも相性がいい。

次に、宇宙でのデータ処理やエッジAIの文脈です。SpaceXとxAIの統合が「宇宙×AI」を語り始めた時点で、衛星側の半導体・放熱・電源・耐環境材に需要が生まれます。

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そして最後が「宇宙で作る」領域。創薬や材料、半導体周辺の微細プロセスなど、地上とは違う環境を使って価値を出す“宇宙製造”は、輸送コストが下がるほど現実味を増します。

日本のCVCが強いのは、ここでも“周辺領域”です。高機能素材、精密部材、製造プロセス、品質保証、そして地上側のサービス実装。ロケットの開発競争に入らずに、宇宙利用のサプライチェーンを握りにいく。これが再現性のある勝ち筋です。 「AIサービスの勝者は読めなくても、“AIを回すための電気と冷却”は必ず必要になる」。

この確度の高さは、CVC担当者が社内で説明しやすいと思います。さらに、投資先のプロダクトが“AI企業に採用される”だけでなく、国内の既存事業(工場、物流、建設、エネルギー)にも横展開できるなら、市場はさらに拡大していきます。

ニュースを見て終わらせず、社内で投資テーマとして通すためには、「技術がすごい」ではなく、「投資後に自社が何を提供できるか」まで言語化する必要があります。

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派手なニュースを、静かに勝ちに行く

xAI×SpaceXの統合は派手なニュースです。しかしCVC担当者に必要なのは、派手なニュースを自社の投資テーマに翻訳する力です。 生成AIは「モデル」より「電気と熱」の産業を太らせ、宇宙利用は「ロケット」より「宇宙利用の周辺産業」を太らせる。

日本企業はロケット産業などの正面突破のみならず、周辺産業を取りにいける。 そこにCVCの投資妙味があります。

これが2026年のCVCに求められる戦略です。 ニュースを“勝ち筋”に変える第一歩を踏み出しましょう。

(以上)

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