1 有価証券の募集規制の緩和の概要
2025年12月26日、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書が公表されました。今回の報告の目玉は「スタートアップ企業等への資金供給の促進」を目的とした発行時開示規制の大胆な緩和策です。 金融商品取引法では、50人以上に対する取得勧誘を伴う有価証券の発行、すなわち「募集」を行うためには、原則として「有価証券届出書」の届出及び開示が義務付けられています。ただし1億円未満の募集については、これが免除されており、有価証券通知書を管轄財務局に提出すれば足りるとされています。今回の金融審議会のレポートでは、有価証券届出書が免除される募集の上限を1億円未満から5億円未満に拡大する規制緩和策が提言されています。 非上場会社がVCやCVCから資本調達する場合、金融商品取引法では「私募」と定義される、50人未満への取得勧誘が基本です。私募の場合、有価証券届出書の届出は不要で、金額の上限なく資金調達が可能です。そこで非上場会社のエクイティファイナンスは「私募」で行われることが通常となっているのです。「募集」の典型的な形態は、金融商品取引所(1999年までの店頭売買有価証券市場を含む)への新規上場時に行われるIPO(Initial Public Offering)や上場後のPO(Public Offering)です。非上場会社においては「募集」による調達は、一般的な方法とは考えられてこなかったのが実際のところです。
2 非上場株式等の募集制度の変遷
歴史的には1997年以降、日本でも非上場株式の募集について法制度が整備され、以下の変遷により、進化してきました。
① 非上場株式の投資勧誘解禁に伴う証券会社の募集取扱(1997年~2000年) 1997年、金融ビッグバンの一環として、成長志向の中小企業にリスクマネーの供給を促すことを目的に、それまで証券会社に全面的に禁止されていた非上場株式の投資勧誘が解禁されました。同年、私が創業したディー・ブレイン証券では、非上場株式の発行流通市場としてVIMEXを創設。非上場株式の募集取扱を開始しました。非上場株式の投資勧誘にあたっては、有価証券届出書またはこれに準じた「会社内容説明書」による開示を行うべきこととされました。 この際、有価証券届出書の免除要件が5億円未満から1億円未満に改められています。これは証券会社に非上場株式の投資勧誘を解禁するにあたり、投資家保護を図るべく、法定開示による投資勧誘の範囲を広げることが趣旨であったと考えられます。一方、1億円未満の募集については、日本証券業協会の規則により新たに「会社内容説明書」の書式が定められ、これを目論見書として利用することが義務付けられました。「会社内容説明書」は法定開示書類ではありませんが、直近2年間の財務諸表に公認会計士監査が義務付けられており、「有価証券届出書」に準じた書式となっていました。 なおVIMEXにおいて募集により資金調達を行った企業は11社、調達総額は8億7千万円でした。
② グリーンシート市場における募集取扱(2000年~2015年) 2000年の証券取引法改正では、「店頭取扱有価証券制度」が設けられるとともに、日本証券業協会において「グリーンシート銘柄」制度が発足。VIMEX銘柄は全てグリーンシート銘柄に移管され、VIMEX市場も日本証券業協会が運営するグリーンシートに引き継がれました。会社内容説明書は、グリーンシート銘柄としての指定初年度に限り、財務諸表開示は直近1期のみで良いこととなり、数値計画を伴う事業計画を併せて開示することとなりました。グリーンシートでは、2010年までの約10年間に合わせて151社が募集による資本調達を行っていますが、ディー・ブレイン証券はこのうち140社の募集取扱を主幹事(代表取扱会員)として行っています。なお、151社のうち有価証券届出書の届出により1億円以上の募集を行った事例は5社に留まっています。
③ 株式投資型クラウドファンディングによる募集取扱(2015年~) グリーンシート制度は、流通市場を伴うことからインサイダー取引規制等に対応すべく上場有価証券に準じた開示負担が中小企業には重すぎるとの指摘から、2011年の金融審議会で廃止が決定。これに代わる制度として2015年の金融商品取引法改正で生まれたのが「株式投資型クラウドファンディング」(以下「ECF」)制度です。同年に設立した当社当社CFスタートアップパートナーズの前身のDANベンチャーキャピタルでは、2017年にECF専業の金融商品取引業者「第一種少額電子募集取扱業者」として登録し、ECFプラットフォームの運営とECF銘柄の株式の募集取扱を開始しました。その後、当社グループでは2024年にECF事業を売却していますが、ECFではNO.1のシェアで募集を行っているのはFUNDINNOでは、これまでに300社を超える非上場会社について200億円超のエクイティファイナンスを支援しています。 ECF制度ではグリーンシートの反省を生かして、中小企業の開示負担を軽減すべく、1億円未満の募集については開示不要とされています。ただし、投資家のリスクが高まることから一人当たり1社につき原則50万円(保有純財産及び年収によって200万円まで拡大可)を上限とする規則となっています。
④ DPO(Direct Public Offering)による自己募集(2024年~) 当社が手続きの体系化及びドキュメントの標準化を進めたことで、近年、急速に事例が伸びてきているのがDPOです。グリーンシート及びECFで「拡大縁故募集」として行ってきたノウハウを発行会社に提供し、会社の周囲に対して需要調査を行った上で、事業目的に賛同する会社法が期待する本来の株主を、金融商品取引業者の仲介なく、自ら直接募っています。DPOサポートとして当社がノウハウ提供のサービスを開始した2024年11月から2025年1月までの累計サポート先数は28社。募集総額は7億8千万円となっています。DPOにおいても有価証券届出書の必要がない1億円未満の募集を行っており、管轄財務局に有価証券通知書を提出しています。目論見書としては当社の標準書式である「新株式発行概要書」をご使用いただいています。証券情報はほぼ有価証券届出書と同一の書式。企業情報については、会社が用意する事業計画にリスク情報を加え、これに届出書に準じた株式の状況、経理の状況として会社法に基づく計算書類を添付しています。
3 スタートアップのエクイティファイナンスへの影響
今回、開示規制の緩和により有価証券届出書の免除要件が5億円未満とされると、1997年以前の制度に戻ることを意味します。米国では、SECの登録免除基準が1,000万ドル(約15億円)、欧州でも目論見書の公表免除基準が800万ユーロ(約14億円)であることと比較すると、これでもまだ厳しい水準です。しかしながら、上記のうち現在、運用が行われている③のECF及び④のDPOについては、今後の発展にプラスとなると考えられます。 成長志向の中小企業にとって、VCやCVCからの調達のほか、募集による調達を含めて多様なファイナンス手法の選択肢が広がることは、ありがたいことです。一方、募集によって株主が増えることを懸念する声もあります。特にVCやCVCにとっては、株主間契約の締結が困難であること等が原因となって、次のラウンドでの参加の障害となることがあると指摘されているところです。 その点、当社がサポートしているDPOでは、多くの場合、種類株式により募集を行っています。特にVC・CVCからの調達を予定している企業では、次回ラウンドで一定金額以上の調達を行うことを前提に、金銭を対価とする取得条項を置くことで、VC・CVCの参加の障害とならないよう工夫しています。DPOでは、最低投資単位を50万円としていることもあり、一人当たりの平均投資金額は100万円前後。届出書不要の範囲が5億円まで拡大することで、DPOとVC・CVCからの調達とを組み合わせた調達の幅が広がり、非上場会社の成長を加速させる上において大いにプラスとなるでしょう。VC・CVCの投資先においては、DPOを活用した追加資金調達を検討しやすくなると考えられます。
4 有価証券通知書の開示制度化
今回の金融審議会のレポートでは、有価証券通知書の位置づけを変える提言もされています。従来、有価証券通知書の目的は、監督当局が有価証券届出書の必要な募集に該当しないことを確認することを目的としていました。したがって書類は財務局内に保管されるのみで、外部に開示されることはありませんでした。ところが今回のレポートでは、5億円未満まで届出書不要の募集が拡大することに鑑み、通知書及びその添付書類をEDINETで投資者に開示することが提言されています。開示される情報には計算書類を含むものとし、会計監査人設置会社や監査役設置会社の場合は監査報告書を添付する提案となっています。当方が指導するDPOにおける「新株式発行概要書」はその要件を満たすものであると考えられますが、財務局による実質的な審査が行われるか否かなども含めて、今後、健全なエクイティファイナンスが中小企業に広がる仕組みとなることを期待したいところです。





















