CFスタートアップパートナーズ

2026年3月号
CVC投資戦略研究会
Monthly Report

Contents

  • 巻頭言 ~IPO減速下におけるCVCの出口戦略~
  • 今月の注目スタートアップインタビュー「株式会社Nebraska」
  • 今月の注目スタートアップインタビュー「glafit株式会社」
  • 豆知識 CVCが創る「第二の資本市場」― 実装まで走る、そして“顧客”になるCVC

巻頭言

株式会社CFスタートアップパートナーズ
代表取締役出縄 良人(公認会計士)

1 IPO市場の動向

2025年1月〜12月の日本の新規IPO企業数は66社と、前年の86社から大幅な減少となりました。東証グロースの上場維持基準が、現⾏の上場10年経過後、時価総額40億円以上から、上場5年後に時価総額100億円以上と厳格化されたことから、時価総額100億円未満の小粒上場が大幅に減少したのが主な原因と考えられます。以下は、最近10年間の新規上場企業数の推移です。

1775109345_image9.png (TPM除く、出典:Deloitte Tohmatsu)

 小粒上場を「悪」とする風潮が続く限り、IPO数の減少傾向も継続し、来年以降は年間50社前後で推移するのではないかと推察されます。

2 EXITのIPO依存とCVCの投資戦略

 一方、日本ベンチャーキャピタル協会及びVECの調査によると、この10年間の日本のVC及びCVCによる国内投資件数は年間約1,500〜2,000件規模で推移しています。2024年のデータでは、上記のIPO、86件のうちVC投資のEXITとしてカウントされるのは61件のみです。一方、M&AによるEXITは178件と前年比32.8%増と大幅に伸長しました。 長年、EXITをIPOに依存してきた日本のVCですが、IPO市場の縮小に先行して、大企業によるスタートアップの買収が加速し、ようやくEXITの選択肢が多様化してきたことがわかります。財務リターンを重視するLPの投資を集めているVCにとっては、ベンチャーキャピタリストのクオリティを高め、EXIT戦略の変化に対応できる投資先の選別並びに投資後のフォローが必要となるでしょう。 他方、CVCの投資には、VC同様の財務リターンを目的とする投資とは別の側面もあります。それはビジネスリターンを目的とする投資です。協業やオープンイノベーションによってビジネス上のリターンを得る目的で投資を行うものです。専ら財務リターンを目的としてきたCVCにとって、IPOの減速は、ビジネスリターン重視へと戦略の転換を図る(経営陣に戦略の転換を訴える)絶好の機会とも言えます。ただ、財務リターンとビジネスリターンは、決して相反するものではありません。むしろ、本来のCVC投資を正しく実践すれば、両方の成果を同時に得ることができるものです。

3 ベンチマークはIntel Capital

筆者がベンチマークしているCVCはIntel Capitalです。インテルの投資チームとして1991年に創設された世界で最も歴史のあるCVCの一つです。最新のCrunch Baseのデータによると、これまでの投資先総数は1,624社、そのうち526社がEXITに至っています。注目すべきはこの EXIT の中に、インテル本体(事業部門)が M&A をしているケースが多数あることです。CVC として事業シナジーの見込める投資先にマイノリティシェアで資本参加しながら、その後、M&Aに発展させているわけです。ところが、M&AでのEXIT先はインテルだけというわけではなく、マイクロソフトをはじめ他の IT 関連企業にM&Aされているケースも少なくありません。ポートフォリオとして保有している期間には、インテルの経営資源をフル活用して企業価値を高めています。Intel Capitalとして財務リターンをEXITで確保しつつ、インテル全体の事業戦略上の成果を得ている、素晴らしいCVCのモデルと言えましょう。

4 オープンイノベーションとM&AをリードするCVCへ転換を図る

本来CVCはVCと比較して、本業の事業分野の専門性を生かした目利きと、事業部門とのシナジーによる成長支援に優位性があります。ただ、日本の多くのCVCは、VCがリードする案件へのフォロー投資を中心に運営されてきました。フォロー投資は、リードVC投資のノウハウを学びつつ、有望なスタートアップと接点を持ち、手堅く財務リターンを得るには有効な方法ではあります。しかし、自社事業の特徴ある経営資源を活用して投資先のスタートアップと協業し成果につなげるためには、リード投資を担って強い影響力を投資先に対して行使できることが不可欠です。

上記のIntel Capitalなど海外の主要なCVCでは、自社との協業で成長を後押しできる可能性をもつスタートアップを主体的に発掘し、自らが中心となってDDを行ってリードとして投資を実行しています。必要に応じて取締役を派遣するなど、積極的に経営に関与して、事業の成長を後押しします。上場EXITが狭まった環境下では、投資を受けたスタートアップ側にとっても、M&AがEXITとして最も有効な選択肢となります。リードを担って成長に貢献してきたCVCの事業部門本体が、M&Aの買い手となるのは極めて自然な流れです。 これまでフォローに徹してきたCVCにとって、リード投資を始めるのは簡単なことではありません。第一に求められるのは、CVC担当者のエクイティ投資にかかる専門知識です。VCから経験者を招聘することも有意義ですが、さらに有効な方法が社内の人材をスタートアップ投資の専門家に育てる教育です。自社の事業や技術への深い理解と専門知識をもつ担当者が、エクイティ投資にかかる専門知識とノウハウを習得すれば、それこそ真のベンチャーキャピタリストと言えます。

5 CVC担当者ナレッジ講座のカリキュラム

当社CFSPが提供する「CVC担当者ナレッジ研修」は、フォロー投資に徹してきたCVCの担当者を、リード投資を行うベンチャーキャピタリストへと進化させることを目的に設計されています。投資候補先スタートアップに対するDDから価値評価、種類株式の設計と資本政策、投資契約と株主間契約、モニタリングとハンズオン、そしてM&Aを主体とするEXIT戦略について体系的に学べるカリキュラムです。 IPO減速は、従来のIPO中心のEXIT戦略から欧米型のM&A中心のEXIT戦略にシフトさせる大きなチャンスです。そのような環境下、CVCは、未来の新たな柱となる事業を創り出す戦略的な投資部門として、経営上、最重要部門の一つに位置付けられることとなるでしょう。

今月の注目スタートアップインタビュー①「株式会社Nebraska」

無人店舗化ソリューションが切り拓く小売業の新常識

1775109439_image21.png

本記事では、株式会社Nebraskaの代表取締役 横山さんに、ご自身のご経歴や無人店舗化によるリアル店舗の可能性の追求と地域貢献についてお話を伺っています。

株式会社NebraskaはCFスタートアップパートナーズが運営する牧之原チャレンジビジネスコンテスト(まきチャレ2025)で準大賞を受賞されています。

貴社の事業と設立背景について

-本日はお時間頂き誠にありがとうございます。はじめにご経歴と起業背景について教えてください

横山氏:私は元々M&Aの会社でFA(ファイナンシャル・アドバイザー)としてM&Aの一連のプロセスにおいて、売り手または買い手の一方に対してサポートを行う業務をしておりました。 その中で金融は全く関係ないんですが、共同創業者の藤本と飲み会で「本屋さんが町から無くなっていく現状をなんとかしたい」となりまして、書店のPL構造を分析した結果、人件費と売上の課題を解決できればこの現状をどうにかできると考え、ビジネスモデルを作りました。 その後サラリーマンと並行して起業の準備を行い、実際にプロトタイプを作ったところ書店に本を卸す取次や書店運営を行う株式会社トーハンに興味を持ってもらい、経営企画部の方々との議論や検証を重ね、2023年3月から山下書店世田谷店を導入第一号店として実証実験を開始しました。 はじめは我々のサービスが本当に効果があるのか分かりませんでしたが、毎年3-4%市場が縮小する書店においてその近隣の店舗も同じように売上が減少する中、導入した店舗だけ12%増加したんです。このことから我々のソリューションの有用性が高いのではないかと思い、他の地域の書店や他の小売業の店舗への導入を開始した結果、あらゆる地域、業態においても売上の増加に繋がっていることが確認されました。現在はより事業をスケールするべく、資金調達などを通じて人・金を拡大していくフェーズとなっています。

1775109518_image24.jpg

-貴社の事業内容について詳しく教えてください。

横山氏:弊社は小売業の無人化店舗ソリューション「デジテールストア」を提供しています。既存の無人化ソリューションは「人を無くすことでコストが下がる」という観点のものが多いのですが、弊社は「閉店時間を無くすことで売上・利益を高める」という視点から、町の本屋さんでも24時間営業を実現できる無人化のシステムをご提供しています。 営業時間を伸ばすことが売上が伸びることに繋がるのは明らかです。しかし、近年では最低賃金の高騰などの要因から、売上を人件費などのコストが上回る「赤字の時間」が多く存在していたり、人手不足によってシフトが埋まらないことで、通常通りの営業時間を維持できないケースが多くあります。そのようなコストが合わない、人が集まらない時間帯を無人営業に転換することによって営業時間は維持しつつ、コストは抑えて利益が上がるということが可能になります。

1775109551_image22.png

現在の小売業では、店舗が人を雇って運営することが一般的なので、その運営の基盤は「人」にありますよね。だからこそ、人件費の高騰や人手不足によってその基盤が揺らぐことになる。「木曜日のシフトが埋まりません」となれば、その日の基盤が落ちてしまい安定した店舗運営ができません。そうではなく、運営の基盤を「システム」にし、それ自体で最低限営業できる状態を整え、その上に「人」を置くことでより安定した運営が可能になります。例えば、「今日の夕方のシフトを埋めることができなかったので、その時間帯は無人営業します」といったようにシステムを基盤にすることでより柔軟な対応をとりやすくなります。

-これまでの事業展開の中で、特に印象に残っている出来事や転機となったエピソードはありますか?

横山氏:やはり導入一号店の山下書店世田谷店での出来事が大きいですね。駅前にある地元の書店さんなのですが、導入にあたって2,3週間ほど改装も兼ねてお店を閉めていたんです。そしたら営業再開時にお客さんから「閉店したと思ってたんですよ..」「ついにこの町から本屋さんがなくなったのかと思いました..」という町から書店が無くなることに対する不安や、それが実際起こらなかった安堵の声を直接頂きました。 普段は企業様とお話することが多いですが、書店を利用するお客さんの声をダイレクトに伺うことを通じて、その町のお店の収益性を改善する我々のソリューションが、世の中に求められていると確信した印象的な出来事でした。

-事業をされている中で課題に感じられていることがあれば教えてください

横山氏:各業界における無人営業の「ファーストペンギン」を見つけることに課題感を持っていて、そこはようやくクリアしはじめていると考えています。 実は「無人営業」に良いイメージを持っていない方は結構多いんです。無人店舗が増えてきたコロナ禍に、無人の冷凍餃子店や古着屋が万引きに襲われる事件がワイドショーの格好のネタになっていたことがその理由だと思います。やっぱり今でもその印象が強くて「無人営業って危険だよね」というイメージを持たれやすく、有用であると考えられることがほぼ0なんです。 だからこそ、業界の無人営業のファーストペンギンを見つけることが非常に重要です。最近の例で言えば、スーパーマーケットの業態においてもとんでもない効果が出ていますし、無人営業によって営業時間が伸びて売上が伸びるという明確な効果がありますが、負のイメージを乗り越えて業界のファーストペンギンを見つけることが今後も課題になりますね。

-無人店舗につきまとうセキュリティの課題。貴社ではどのようにセキュリティ上の課題を乗り越えていますか?

横山氏:他社のシステムではAIカメラ等で万引きを検知するというものが多いのですが、我々はLINEで入店認証を行っており、誰がどこの店舗に入ったのかを把握しています。 そうすることで来店者側としても、自分の情報が店側に認識されていることが分かるので、そもそも万引きを行いにくいシステムを構築しています。万引き犯から見れば、通常の店舗形態よりも、LINEで入店確認をされる弊社のソリューションにおいて万引きをすることは追跡されるリスクが高くなります。 実際に我々のソリューションの導入前と導入後でロス金額の比較検証を行いましたが、導入後に営業時間が大幅に伸びているにも関わらず、ロスの金額が変わっていないんです。無人営業を行ってもロスが変わっていないということは、我々のソリューションによる店舗運営での万引きのリスクは、通常と比較して極端に低くなると考えています。

1775109608_image3.png

牧之原市チャレンジビジネスコンテスト「まきチャレ」 について

-エントリーされたきっかけについて教えてください。

横山氏:我々のソリューションは特に人手不足や収益性の低さから事業自体がなくなってしまうような地域に対して貢献できると考えています。牧之原市においても、そのようなネガティブな要因により閉店してしまうという社会課題があり、その問題に対して我々のソリューションが有用であるという文脈から応募させて頂きました。

-準大賞を獲得された心境をお聞かせください

横山氏:やっぱり嬉しいですね。しかしその反面、受賞しただけで終わってはいけないという気持ちがあります。ここからが一番大変で、結果を出さなければならないと考えています。

-サービス開発において大切にされている価値観や哲学があれば教えてください

横山氏:何を目的とするのかをブラさないことが大事だと思います。弊社では「お店側の利益になり、お客さんは便利になる」ことは絶対に外してはならないことだと考えています。他社で往々にしてあるのは、テクノロジーありきでプロダクトの目的が曖昧であるケースです。その夢があるプロダクトを作ることによって便利になるのか、それとも利益が出るのかなど、目的が抜けていることが多いと思います。我々はお店の利益のため、お客さんの便利という目的はずらさず、そのためにどのような手段をとるのかを検討することが大切だと考えます。

今後の展望など

-御社の今後の展望をお聞かせください

横山氏:今後もリアル店舗の価値をより追求したいと思っています。「EC(Eコマース)って本当に便利なんですか?」ということは特に問い直したいです。リアルな店舗が全て24時間営業だったら、ECはおそらく衰退すると思います。リアル店舗であれば今すぐお店に行って、服であれば試着などを通してサイズをチェックしたり、実際の肌触りを確認することができます。そのまま購入してその場で手に入れることも可能です。 それに対してECはどうでしょうか。画面越しなので、実際の質感や色は分からないですよね。注文しても届くまでに2、3日は必要となり、それで実際届いたらシルエットやサイズが違ったなんてこともよくあります。 今現在EC以外の選択肢がないから便利だという話になっているけど、リアル店舗の可能性が今後更に拡大されていった時にECの利便性が問い直される世界になっていくと思いますし、デジテールストアを通じてリアル店舗の可能性を拡大したいです。 また、地方においてはお店の数が少なくなることでその地域の魅力が減少し、それで人口も減ることでまた更にお店が減ってしまうという負のループが存在します。無人店舗化による収益性の向上によって、出店ができなかった地域にも出店が可能となるため、そのような地域貢献の可能性も追求していきたいです。

本日は貴重なお話をありがとうございました!

“人を無くす”のではなく、“閉店時間をなくす”という発想が、単なる省人化やコスト削減の手段を超えて、地域インフラとしてのリアル店舗を守り、その価値を再定義する力を持つことを強く実感させてくれるインタビューでした。 『ECは本当に便利なのか?』という常識への問いかけや、システムを基盤にすることで人の価値を最大化するという視点には、小売業の未来を切り拓く冷静な分析と、地域社会への熱い想いが宿っていました。 テクノロジーの力でリアル店舗のポテンシャルを解放し、地域の好循環を生み出していく株式会社Nebraskaのこれからの歩みに、引き続き注目していきたいと思います。

企業概要

1775109652_image15.png

【会社名】株式会社Nebraska

【URL】https://www.nebraska-tech.co.jp/

【設立年月】2021年8月

企画/監修:出縄(株式会社CFスタートアップパートナーズ)

取材/執筆: 藤本(EXPACT株式会社

「牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(まきチャレ)」

牧之原市の地域経済を活性化するため、商工業や農水産業、観光資源を活用し、新たな事業を地域と共に育てていくビジネスプランコンテストです。CFSPはコンテストの運営事務局を受託しており、企画・推進を行っています。

今月の注目スタートアップインタビュー「glafit株式会社」

「移動を、タノシメ!」和歌山発glafitが描く、電動モビリティの未来と地域課題解決

1775109714_image17.png

本記事では、glafit株式会社の松浦様と広報の安藤様に、電動モビリティ開発にかける想いや今後の事業展開についてお話を伺っています。glafit株式会社は、CFスタートアップパートナーズが運営する「まきチャレ2025」にて、市長特別賞を受賞されました。和歌山県を拠点に、観光や防災といった地域課題の解決にも取り組み、グローバルな事業拡大を目指しています。

※本インタビュー企画・記事執筆は株式会社CFスタートアップパートナーズよりEXPACT株式会社が委託を受け、実施しております。

和歌山発、電動モビリティスタートアップの挑戦

ー glafitの起業背景について教えてください。

松浦氏:弊社は2017年に創業したスタートアップで、電動パーソナルモビリティの設計開発から販売まで一気通貫で手掛けています。現在は二輪の電動パーソナルモビリティをメインに展開していますが、先日開催されたJapan Mobility Show 2025では3輪モデルを発表し、昨年の大阪・関西万博では4輪モデルを出展しました。 我々は2輪に限らず、3輪・4輪といったさまざまなプロダクトを通して、「移動を、タノシメ!」というブランドメッセージを掲げ、日本、そして世界中の皆様に乗りやすく楽しい車両をお届けすることを目指しています。 創業時、代表の鳴海が実現したかったのは「自分の手で車を作ること」でした。彼は車が大好きで、オリジナルの車両を作りたいという夢を持っていました。しかし、最初から4輪車の開発は非常にハードルが高い。そこで、2017年当時はまだ街中に電動パーソナルモビリティが普及していなかった環境も踏まえ、まずは2輪のモデルから始めようと決めたのが創業のきっかけです。

クラウドファンディングで証明した市場ニーズ

松浦氏:最初に発表したのが電動バイクGFR-01です。当時、画期的だったクラウドファンディングプラットフォーム「Makuake」に挑戦しました。Makuake自体もサービスを開始したばかりで、当時は約1000万円の応援購入が集まれば大きな成功とされていた時期でした。そこで弊社が電動バイクGFR-01を出品したところ、当時のクラウドファンディング史上初の1億円を突破しました。一気にglafitの認知度が高まり、電動モビリティの楽しさがアーリーアダプター層を中心に広まっていきました。 当初海外展開を検討しており、2020年1月にはCESで発表しました。しかしながら、新型コロナウイルス蔓延に重なり、海外活動の制約が大きくアメリカのクラウドファンディングKickstarterの中止を決断しました。このプロジェクトは再度国内向けに転換しMakuakeで発表しました。こちらも約1.5億円を突破し、Makuakeでも電動モビリティ業界で2回連続1億円達成という当時は弊社のみが成し遂げた記録により、大きな注目を集めました。 一方で、我々はGFR-01のユーザーの皆さんから法律に関わるご意見を多くいただいており、その課題を「規制のサンドボックス制度」を通じて改善することに成功しました。モビチェン®機構を開発し、道交法上「電動バイクと自転車を1台で切り替えて使える」電動バイクとして国内初認定を受け、GFR-02ではモビチェン®を実装し車両区分を切り替えて乗れる新しいモビリティへとアップデートされました。先述のJapan Mobility Show 2025ではGFR-03を発表。着実に進化を遂げています。

1775109831_image11.jpg 電動バイクGFR-02(モビチェン付き)

特定小型原付という新たな市場

松浦氏:2023年7月、日本で「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」という新しい車両区分が誕生しました。これは16歳以上であれば免許不要で乗れる乗り物で、ヘルメットも努力義務。自転車と原付バイクのちょうど中間に位置する新カテゴリーです。この法整備により、大きな転機が訪れました。それまでのGFRシリーズは一般原付50cc相当だったため、免許保有者しか「移動を楽しむ」という価値観を体験できませんでした。しかし特定小型原付の登場で、さらに多くの方にglafitの楽しさを届けられるようになったのです。この法改正を受け、2024年3月に免許不要の着座型電動サイクル「NFR-01 Pro+」を発表。現在はGFRシリーズとNFRシリーズの2シリーズを展開しており、おかげさまで日本国内での販売台数は1万5千台を突破しました。 さらにNFR-01Pro+のシェアリング仕様は、OpenStreet株式会社が運営するシェアリングサービス「HELLO CYCLING」に正式採用されています。これまでは車両を購入した方しか体験できなかった「移動を楽しむ」価値観が、街中のポートから誰でも利用できるようになりました。

― HELLO CYCLINGへの導入時期はいつですか?

松浦氏:2024年1月からHELLO CYCLINGでの展開を開始しました。最初は千葉の幕張新都心エリアからスタートし、その後、埼玉、東京23区の一部、大阪府堺市などへと広がり、現在では本拠地である和歌山県和歌山市でも導入が進んでいます。

1775109872_image5.jpg 電動サイクルNFR-01 Pro+

和歌山を拠点とする理由

― 和歌山に本社を置く理由はありますか?

松浦氏:代表の鳴海が和歌山出身ということもあり、「この地でスタートアップを立ち上げ、IPOを実現したい」という強い思いから、本社を和歌山に構えています。我々はメーカーとして自社で設計開発から最終検品、販売、サポートまで手掛けているため、和歌山には最終工程と検品ラインのすべてを備えています。

― 戦略的な理由ではなく、熱い思いからだったのでしょうか?

松浦氏:おっしゃる通りです。私自身も複数のスタートアップを経験してきましたが、正直、東京に本社を移した方が有利な面は少なからずあります。しかし、鳴海の「和歌山からスタートアップを生み出したい」という熱量に共感いただき、「一緒にやろう」「協力させてほしい」と言ってくださる企業が多くいらっしゃいます。

― 社員にもその思いに共感している方が多いのですか?

松浦氏:そうですね。社員の6〜7割は和歌山出身です。和歌山は昔から住友金属などの金属加工、花王の工場、最近では高品質なニット製品、そしてみかん・梅といった農業生産が強い地域でした。ただ、スタートアップが生まれにくい環境だったのも事実です。 そんな中、glafitは和歌山では特色のある存在として、「IPOを目指し、大きな夢を一緒に実現したい」という同志が集まっています。一方で、開発チームには元大手メーカーのエンジニアなど、県外から「ぜひチャレンジしたい」と集まってくる人材もいます。

電動モビリティの特色と優位性

― glafitのGFRシリーズやNFRシリーズは、既存の自転車やオートバイとどう違うのでしょうか?

松浦氏:日本では現在、電動アシスト自転車が年間約70万台販売されており、統計によると多くの方が「快適に移動したい」という目的で購入されています。我々の車両は一人乗りなので、お子さんの送迎用途には向きませんが、快適な移動という点ではむしろ優れていると自負しています。その特徴を表すのが「一生こがない電動サイクル」というキャッチコピーです。 従来の電動アシスト自転車は、名前の通り漕がないとアシストされません。坂道で停止した際、ご年配の方が一漕ぎ目を踏み出さないとパワーが出ないため、バランスを崩しやすいという課題がありました。一方、電動サイクルはバイクのようにスロットルを回すだけで動き出すため、どなたでも安心してお乗りいただけます。さらに、山や坂の多い日本の環境に合わせ、国内の特定小型原付の中でトップクラスの登坂能力を実現しています。 昨年、ガソリンの50cc原付バイクの新車生産が終了しました。年間10万台規模の市場でしたが、その受け皿は今、まだ明確ではありません。国は対応として、125ccクラスの原付2種を最高出力を4kW以下に抑えるなど一定の基準を満たした「新基準原付」を新設しました。あくまでも交通ルールはこれまでの原付1種同等ですが、車体サイズは125ccサイズと、取り回しが不便になったとの声も。都内では従来の50ccバイク置き場に停められないなど、使い勝手が良くありません。そこで、「この機会に電動モビリティに変えてみよう」という方が増えています。ガソリンスタンドに行く必要もなく、家のコンセントで充電できて維持費も安い。こうしたニーズを我々が受け止めています。 傾向として、免許保有者の減少や免許返納者の増加により、免許そのものへの価値観が変わってきています。車を持たない人、バイクに乗ったことがない人も増えています。我々の免許不要の電動バイクは最高速20kmと、自転車と同じ速度帯です。それでも快適に移動できることを知っていただくと、「自分の思うように移動できるのは、やはりいい」と、乗り物に興味がなかった方にも選んでいただけるようになりました。 また、「免許を返納したいが田舎では車が必要」というお声も多くいただきます。事故を起こしてご家族に心配をかけてしまうケースも少なくありません。これまで車を手放すと公共交通機関の他には自転車、また最高速度6km/hのシニアカー、電動車椅子の選択肢と限られていましたが、特定小型原付はそのちょうど中間。車ほど速くなくてもいいが、電動車椅子よりは遠くまで、速く移動したいというニーズに非常にマッチしており、選んでいただくことが増えています。

製品開発における安全性への取り組み

― 社会環境が急速に変化する中、製品開発で重視していることはありますか?

松浦氏:私は営業側の人間なので開発の全てを把握しているわけではありませんが、開発現場の安全性への取り組みには本当に驚かされます。我々の車両は中国で生産していますが、和歌山に入ってきた後、全ての車体を1台ずつ全数検品し記録しています。これは電動パーソナルモビリティメーカーの中でも数少ない取り組みです。外観のキズの確認の他、締め付けトルクチェック等々、分厚い基準書に基づいて徹底的にチェックし、それをもってお客様のもとへお届けする。ある意味、自動車メーカーに近い品質管理体制だと、入社時に強く感じました。

もう一つの特徴は、メーカーでありながら業界団体「一般社団法人日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)」を立ち上げ、弊社代表の鳴海が代表理事を務めていることです。JEMPAには、電動モビリティを製造するメーカー、取り扱う販売店、シェアリング事業者やクラウドファンディング事業者など、業界の多様なプレイヤーが参加しています。「日本で電動モビリティを安心安全に利用するには何が必要か」を議論し、警察庁や国交省などの関連省庁と連携しながら、法整備や安全啓発活動を行っています。ものづくりと合わせて、法整備などの環境づくりも一緒に取り組んでいくことが弊社の大きな特徴です。

グローバル市場での競争優位性

― 世界的にNiuやSegway、Xiaomiなど中国メーカーが市場を席巻する中、日本でglafitが支持される理由はありますか?

松浦氏:日本にも中国製の車両は非常に多く流通しています。正直なところ、最近の中国メーカーの製品は非常によくできていて、デザイン、機能、制御面で優れたものも少なくありません。その中で我々が日本で支持いただいている理由は、大きく3つあります。 第一に、先ほどお話しした安心安全への徹底した取り組みが挙げられます。第二に、日本の道路環境に合わせた車両設計。そして第三に、「和歌山フィニッシュ」と呼んでいる全数検品体制です。この姿勢が多くの方に理解され、評価されていると感じています。 興味深いのは速度制限への対応です。最高速度20kmだけで比較すれば、glafitも中国製も変わりません。しかし、中国では20km以上出せる車両を、日本の法規制に合わせて20kmでリミッターをかけると、20kmまでのパワー感が薄くなってしまいます。 我々は発想を変えました。「どうせ日本では20kmしか出さないのだから、この20kmまでを力強く使えるようにしよう」と。そもそもの設計思想が違うのです。開発段階から明確に日本市場をターゲットとして設計しているからこそ、日本の道でもスムーズに走れるプロダクトが生まれています。

都市部と地方での展開戦略

― 人口減少が進む中、都市部と地方では展開戦略が異なりますか?

松浦氏:これは非常に興味深い点です。免許が必要な一般原動機付自転車のGFRシリーズは都市部で強い一方、免許不要の特定小型原付のNFR-01シリーズは都市部でも売れていますが、地方での購入が非常に増えています。 先日、QVCというテレビショッピングで電動サイクルNFR-01 Liteを販売しました。QVC側も特定小型原付を扱うのは初めて、我々もテレビショッピングは初めてという中で、目標を大きく超える販売実績となりました。 今回は全てのお客様に直接訪問して納車したのですが、北は宮城県石巻、南は宮崎県都城など、これまでglafitのオーナーがほとんどいなかったエリアからご購入いただきました。地方の方がむしろ移動への課題が深刻だと実感した出来事でした。 年々、行政も人口減少に伴って行政サービスを縮小しています。路線バスの本数削減や廃路線、そして免許返納への社会的圧力。都市部ではこうした課題が公共交通で補完されていますが、地方では深刻です。

車を手放した後の選択肢として、これまではシニアカーや電動車椅子(最高速6km/h)しかありませんでした。しかし特定小型原付はそのギャップを埋める存在として注目されており、「安心安全に乗れる乗り物はどれか」と調べた結果、弊社にたどり着くケースが増えています。

牧之原市チャレンジビジネスコンテスト2025

― 市長特別賞を受賞した牧之原市での提案内容を教えてください

松浦氏:牧之原市は静岡空港や新幹線駅(掛川・袋井)から海側に位置し、アクセスが非常に悪いという課題があります。多くの方がレンタカーを利用しますが、車に乗れない方や国際免許を持たないインバウンド観光客には不便な状況でした。 我々は現在、新規事業として「WANDERIDE」を全国展開しています。「16歳以上であれば誰でも乗れる電動バイクで、街の魅力を楽しみつくすアクティビティ」として誕生した「ひねちゃツーリズム※」です。電動バイクで街を探検するように颯爽と巡り、車が入れない狭い路地や自転車では登れない坂の上の絶景など、隠れた魅力を楽しんでいただけます。 ※「ひねちゃツーリズム」とは、電動バイクを活用し、風光明媚な観光地を軽快に巡る、新しいスタイルの体験型観光です。電動バイクの利便性を活かし、特定の地域の魅力を発掘し回遊・散策する観光体験として注目されています。 これを牧之原でも提供したいと考えました。ただし、我々の電動バイクの航続距離は40kmのため、空港からの長距離移動には不向きです。そこで提案したのが、自動運転バスで牧之原まで来ていただき、市内は電動バイクで巡るという交通結節の仕組みです。 さらに重要な提案が、災害対応です。牧之原も和歌山も南海トラフ地震の被災想定エリアに含まれています。 街中に電動バイクが普及していれば、災害時に自治体がボタン一つで全車両の鍵を解放できます。先日の北海道・東北の地震では、車で避難しようとした方々が渋滞に巻き込まれ、逃げ遅れるケースがありました。ご年配の方、足の不自由な方、妊婦さんなど、走って避難できない方々が、この電動バイクを使って安全に避難できる仕組みを作れるのではないかと考えました。

― 観光・インバウンド向けの取り組みも進めていますか?

松浦氏:その通りです。NFR-01 Pro+には4G回線、GPS、NFC、Bluetoothを搭載しており、スマホやApple Watchで鍵を開けられます。 この技術を観光業界向けに転用し、従来のレンタサイクルのようなホテルでの鍵の受け渡しを不要にしました。LimeやLuupと同様に、アプリで予約・決済が完結し、そのまま乗車できます。しかも立ち乗りではなく着座型なので、ご年配の方やスカートを着用された女性の方にも安心してご利用いただけます。このサービスは2025年4月から開始し、現在、全国10か所以上で導入されています。 牧之原市への提案は、これらを統合したものです。自動運転バス、電動モビリティ、災害対応を組み合わせることで、「より住みやすく、魅力的で、誰一人取り残さない街」を目指しませんか、という内容でした。

今後の展開ビジョン

― 5年後、10年後のglafitの展開はどのようなものですか?

松浦氏:glafitでは、3つの柱で事業を展開していきます。 まず1つ目は、電動モビリティの開発と販売です。2輪に限らず、3輪・4輪とさまざまなモデルを市場に投入していきます。 2つ目が観光文脈での展開です。現在「WANDERIDE」という名称で事業を進めています。これは観光客だけでなく、地元の方々にも利用いただくことで「自分の街にこんな魅力があったんだ」と再発見してもらうアクティビティサービスです。例えば和歌山の白浜を訪れる観光客の多くは有名スポットを巡った後、すぐに隣町や大阪に移動してしまいます。もっと地元に滞在してもらい、埋もれた観光資源を発掘したい。そのツールとして、免許不要の電動バイクが非常に有効だと考えています。まずは全国でWANDERIDEを展開し、将来的には国境を越えたサービス展開を目指します。日本でWANDERIDEを使った方が韓国を訪れた際、同じアプリで韓国のホテルから車両を借りて観光できる。そんな仕組みをすでに計画中です。 3つ目は、バングラデシュでの事業です。こちらはWANDERIDEに近いシェアリングサービスを展開していますが、車両ではなくバッテリーのシェアリングに注力しています。バングラデシュにおける大気汚染や気候変動といった社会課題に対し、CO₂削減を目指しながら、低コストで持続可能な都市交通の実現を図るために、バングラデシュ政府や現地企業と連携し、電池交換ステーションを活用したバッテリーサブスクリプションモデルでの、電動バイクの普及を目指しています。昨年現地法人を立ち上げ、既に地元企業と連携し、プロジェクトを進めています。 5年後のglafitは、和歌山だけでなく、世界中に拠点を持つグローバル企業になっていると考えています。

グローバル展開の可能性について

― 日本市場に最適化した製品を、今後グローバルに展開する可能性はありますか?

松浦氏:2024年、JETROのプログラムでスペインのバルセロナとフランスのパリの展示会に出展しました。そこで強く感じたのが、「メイドインジャパン」のブランド力です。我々は和歌山で最終検品を行っているため、実は「メイドインジャパン」と謳えるのですが、現在は「和歌山フィニッシュ」という名称を使っています。ただ、海外の方からは「これは日本で作っているんだろう?中国メーカーと比べて品質が明らかに違う」と、車両を一目見ただけで評価していただきました。マーケットへの大きな可能性を感じた瞬間でした。 興味深いのは、日本市場向けに開発した仕様が海外で高く評価されたことです。我々の車両にはウインカーやブレーキランプなどの保安部品が標準装備されています。海外では「自転車なのにブレーキランプが付いている。これは安全性が高い」と驚かれました。日本の厳しい基準で作られた製品が、そのまま付加価値になったのです。 さらに法規制を調べると、日本の20km制限は、海外では25kmが免許不要ゾーンというケースが多く、意外と近い文脈があります。将来的にはヨーロッパ、アジア、そしてアメリカへの展開も視野に入れています。実は、一般販売しなかったX-SCOOTER Lomを、日本でのクラウドファンディング前にアメリカのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)に出展しました。

アメリカの方々から「早く売ってくれ」という熱烈な反応をいただき、大きな手応えを感じました。各市場ごとにローカライズは必要ですが、glafitの取り組みやものづくりは評価いただけると確信しています。グローバル展開の可能性は十分にあると考えています。

「移動を、タノシメ!」という哲学

――「移動を、タノシメ!」には、移動の効率性とは異なる価値観が込められているのですか?

松浦氏:そもそもこの「移動を、タノシメ!」は、代表の鳴海が車好きであることから生まれたスローガンです。今、アメリカでは自動運転タクシーやTeslaのフルセルフドライビングなど、移動がよりパーソナルでありながら自動化される環境が整ってきています。これは止められない流れで、日本でも徐々に来るでしょう。 しかし、移動を楽しむという価値観はなくなりません。乗り物好きにとっては自分で操ること自体が楽しい。車に興味がない人でも、道に迷った先で素敵なコーヒースタンドを見つけるような偶然も、移動の楽しさです。あるいは、激坂を自分の体力を使わずスーッと登っていく爽快感。これも楽しさの一つです。ただ、我々glafitが目指しているのは、安心安全に楽しく移動してもらうことです。 万博で出展した四輪型特定小型原付「WAKUMOBI」がその好例です。通常、特定小型原付のサイズで4輪を作ると幅が狭く倒れやすくなります。そのためシニアカーは速度を出さない設計になっています。我々はアイシンが開発中の「姿勢制御技術」を活用し、車速やハンドル角等の情報に基づき、車体の傾斜角をアクチュエータを用いて制御することで、二輪車並みの幅の狭い車両においても高い自立安定性を実現しています。これにより、免許なしで移動できる、倒れにくい四輪型特定小型原付を実現。車を手放した後も、隣町のスーパーやお隣さんの家へ自由に行けるようになります。楽しさと安全、一見相反するものを、セットで実現するものづくりをしています。 安藤氏:移動そのものを楽しんでほしいというメッセージです。もちろん、その裏付けとして安心安全は不可欠ですが。 地下鉄に乗れば目的地には着きますが、その間に何か体験できるでしょうか?我々の電動パーソナルモビリティなら、走行中の景色の移り変わりを見たり、風を感じたりできます。囲われた空間でただ移動するのではなく、五感で感じられる体験を提供したい。それが「移動を、タノシメ!」の本質です。また、我々は昔から日本の法律にもチャレンジしてきました。 GFR-01はペダル付き電動バイクに該当し、日本の法律上、電源を切った状態でペダルを漕いでいても、見た目には自転車なのに法律上は常に原付扱いで、路肩駐車をよけたりする際など自歩道であっても自転車として走行できないなどの矛盾がありました。そこで我々は規制のサンドボックス制度を通じ、日本で初めて「1台で電動バイクと自転車の車両区分を切り替える」という新しい概念を採用いただき、独自開発のモビチェン®機構を開発し電動モビリティの可能性を大きく広げました。利用者により便利な環境を提供するため、法律にもチャレンジしていく。この姿勢が、他社との大きな違いだと自負しています。 自社で設計開発を行っているからこそ、こうした細かな対応が可能です。この7〜8年間、そうした点を評価いただいていると感じています。

― 日本では電動モビリティへの風当たりが強い印象もありますが?

松浦氏:おっしゃる通り、日本ではシェアリングサービスでの飲酒運転や交通ルール違反がニュースで取り上げられ、向かい風があるのは事実です

ただ、我々はお客様に電動モビリティの実用性や得られる体験価値をしっかりお届けし、安全啓発活動を続けていくことで理解を得られると信じています。5年後、10年後にお客様に選ばれるメーカーはだいぶ絞られるでしょう。だからこそ、我々のミッションを粛々と進めていきます。実はこの状況、海外でも同様です。ヨーロッパでは電動キックボードのシェアリングが廃止の方向に向かい、自転車への回帰が起きている国もあります。しかし、自転車は体力に左右される部分があり、電動キックボードの快適さは忘れられないはずです。そのちょうど中間に位置する、着座型の我々のような電動サイクルには大きなポテンシャルがあると考えています。この逆風を、しっかりチャンスに変えていきたいと思います。

読者へのメッセージ

― 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

松浦氏:新しい移動手段を探されている方には、ぜひglafitをご検討いただきたいです。そして、私たちの仲間として一緒にかなえていきたいという方がいらっしゃればJoinをお待ちしています。我々はまだスタートアップですので、協業やご支援も歓迎しております。

― どのような企業との協業を想定していますか?

松浦氏:地方自治体、交通事業者、観光業界の事業者、ホテル、高齢者向けサービスを提供している企業など、幅広い分野でのパートナーシップを考えています。また、VC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の方々にも、ぜひ我々のことを知っていただきたいと思っています。

今回の取材を通じ、glafit株式会社が単なる「乗り物メーカー」の枠を超え、移動の楽しさと社会課題の解決を両立させようとする強い意志を感じました。特に、「和歌山フィニッシュ」に見られる品質へのこだわりと、法規制や逆風さえもチャンスに変える柔軟な発想は、地方発スタートアップの新たな可能性を示唆しています。牧之原市での実践をはじめ、今後のグローバルな展開からも目が離せません。「移動を、タノシメ!」というメッセージは、私たちの日常をより豊かにするヒントを与えてくれているようです。

企業概要

会社名: glafit株式会社

URL: https://glafit.com/

設立年月: 2017年9月

所在地: 〒640-8452 和歌山県和歌山市梅原579-1

代表者: 代表取締役社長 CEO 鳴海 禎造

企画/監修:出縄(株式会社CFスタートアップパートナーズ)

取材/執筆:青木(EXPACT株式会社

「牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(まきチャレ)」

牧之原市の地域経済を活性化するため、商工業や農水産業、観光資源を活用し、新たな事業を地域と共に育てていくビジネスプランコンテストです。CFSPはコンテストの運営事務局を受託しており、企画・推進を行っています。。

※本インタビュー企画・記事執筆は株式会社CFスタートアップパートナーズよりEXPACT株式会社が委託を受け、実施しております。

豆知識 CVCが創る「第二の資本市場」― 実装まで走る、そして“顧客”になるCVC

1775110051_image6.png

1. CVCは「未来」と「今期」の板挟みから逃げられない

CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の現場で、近年ますます重みを増している問いがある。「次は何に投資するのか?」と「それはいつ成果が出るのか?」である。

1775110075_image3.png

この二つは、本質的に異なる時間軸を持つ。前者は未来志向、後者は短期志向だ。純粋なVCであれば「10年後のリターン」で説明することが許される。しかし、事業会社のCVCはそうはいかない。今期業績への貢献、中期経営計画との整合、既存事業とのシナジー、さらにはIR上の説明責任まで背負う。

この構造的ジレンマこそが、CVCの投資スタイルを大きく変えつつある。 従来のように「将来有望だから出資する」という姿勢ではなく、「将来の技術で、今の事業をどう変えるか」を問われるようになった。つまり、CVCは単なる投資機能ではなく、事業変革の実装装置として再定義されつつある。 この変化は、グローバルな投資データにも現れている。2025年前後には、企業が関与するスタートアップ投資の規模は急速に拡大し、CVCはVCと並ぶ資本供給主体として存在感を強めている。

2. 「補完役」から「アンカー投資家」へ

1775110090_image16.png

かつてCVCは、VCのラウンドに少額で参加する“補完的な存在”と見なされていた。しかし現在では、ラウンドの条件や規模を左右するアンカー投資家として機能するケースも珍しくない。

1775110107_image19.png

この変化の背景には、三つの構造要因がある。 第一に、VCの投資姿勢の変化である。2021年前後の過熱相場を経て、2022〜2023年の金利上昇と市場調整により、VCはディール数を絞り込み、厳選投資へと移行した。その結果、資本供給の空白が生まれ、そこをCVCが埋める構図が生まれた。 第二に、事業会社側の危機感である。AI、カーボンニュートラル、サプライチェーン再構築といったテーマは、もはや研究開発部門だけの問題ではなく、経営の最重要課題となっている。自社開発だけではスピードが追いつかない中で、「外部のイノベーションを取り込む」手段としてCVCが不可欠になった。 第三に、資本構造の変化である。CVCはもはやバランスシート投資にとどまらず、外部LP資金を取り込んだファンド型へと進化している。これにより、投資規模・柔軟性ともに拡張され、よりVCに近い存在となった。

日本に目を向けると、2025年の日本国内スタートアップ資金調達総額は7,613億円(エクイティ、デット除く)と、2024年の7,793億円からわずかに減少したものの、ほぼ横ばい水準を維持していると報告されている。特に10億円超の大型ディールにおいては事業会社やCVCによる直接投資が前年から大きく伸びた、すなわち「企業マネーの比重が高まっている」との分析が出ている。 結果として、スタートアップの資金調達構造も変わりつつある。 「VCがリードしCVCがフォローする」だけでなく、「CVCがリードしVCが参加する」構図も一般化している。

3. MUFGに見る「金融×AI」の実装型CVC

1775110165_image10.png

金融機関におけるCVCの進化を象徴するのが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の取り組みである。 MUFGは、CVC子会社である三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)を通じて、国内外のスタートアップへの投資と、グループ内での事業連携を同時に推進している。

ここで重要なのは、投資が単独で完結しない点だ。あくまで目的は、金融サービスの高度化と新規事業創出にある。 2023年には、約200億円規模の第3号ファンドを設立した。このファンドは、生成AIを含む先端技術の金融サービスへの応用を重要テーマとしており、グローバルなAIエコシステムとの接続強化を明確に掲げている。 ここから読み取れるのは、金融機関にとってのCVCが、単なるリターン獲得手段ではなく、

・新規サービス創出

・業務効率化(オペレーションDX)

・グローバル技術トレンドの取り込み

といった複数の目的を同時に担う存在へと進化していることである。

4. テック企業CVCは「インフラ投資」へ

1775110213_image18.png

この動きは、米国のテック企業ではさらに先鋭化している。 Google(GV・CapitalG)、Microsoft(M12)、Salesforce Venturesといったプレイヤーは、単なるアプリケーション企業ではなく、AIエコシステム全体を押さえる投資へとシフトしている。 特に注目すべきは、投資対象の広がりだ。 従来のSaaSやアプリ企業に加え、

・基盤モデル(LLM)

・AI開発ツール

・データインフラ

・GPU・データセンター

・冷却技術・電力インフラ

といった“インフラ領域”への投資が急増している。 たとえば、MicrosoftはOpenAIとの関係を通じてAzureとの連携を強化し、GoogleはAnthropicとの協業によりクラウド基盤の優位性を確保している。Salesforceも生成AIファンドを拡張し、自社SaaSへの組み込みを前提とした投資を進めている。 ここで重要なのは、これらの投資がすべて「自社事業との接続」を前提としている点だ。 CVCはもはや「外部企業への出資」ではなく、 自社のプロダクト戦略を拡張するための外部R&Dになっている。

5. 製造業CVCは「実装力」を武器にする

1775110270_image23.png

一方、製造業や自動車、エネルギー分野では、CVCの強みはより明確である。 それは「実装力」だ。 Toyota Ventures、Honda Xcelerator Venturesなどは、単なる投資にとどまらず、

・実証フィールドの提供

・製造ノウハウの共有

・サプライチェーンへの組み込み

・グローバル販売網の活用

といった形でスタートアップと関わる。 このモデルでは、投資先企業は単なる資金提供を受けるのではなく、 即座に事業検証とスケールアウトの機会を得ることができる。

日本の通信・電機領域でも同様の動きが見られる。NTT DOCOMO VenturesやSony Innovation Fundは、グループの技術基盤や顧客ネットワークを活用し、スタートアップの事業化を支援している。

1775110322_image15.png

ここでの本質は、「資本」と「事業資産」が一体化している点にある。

6. CVCは「最初の大口顧客」になる

こうした流れの中で、CVCの役割はさらに変化している。 それは、スタートアップにとっての“最初の大口顧客”になることである。 従来、スタートアップは資金調達後、自ら顧客を開拓しなければならなかった。

1775110343_image14.png

しかし現在では、

・PoC(概念実証)をCVC出資企業が提供

・そのまま本番導入へ移行

・自社顧客への横展開

・グローバル展開支援

という一連の流れが設計されるケースが増えている。 これは、スタートアップにとっては極めて大きな意味を持つ。

・初期顧客の確保

・信用力の付与

・スケールの加速

が同時に実現されるからだ。 一方で、事業会社側にとっても、

・新技術の実装

・新規事業の立ち上げ

・既存事業の高度化

を同時に進められる。 つまり、CVCは「投資」と「顧客関係」を融合させる装置へと進化している。

7. CVCは「R&D兼事業開発」へ再定義される

1775110411_image12.png

ここまでの流れを総合すると、明確な結論が見えてくる。

CVCはもはや、

・スタンドアローンの投資ビジネス

・財務リターンを目的とした資産運用

ではない。 むしろ、

・中長期競争力を高めるR&D機能

・新規事業創出の起点

・オープンイノベーションの中核

として再定義されている。 この変化を象徴するのが、投資プロセスそのものの変化である。

従来:

投資 → モニタリング → Exit

現在:

投資 → PoC → 共同開発 → 商用化 → スケール → 追加投資/M&A

この一連の流れは、もはやVCの枠組みを超えている。 CVCは、「資本」を通じて事業そのものを動かす存在になりつつある。

8. 勝ち筋は「実装できるCVC」

1775110497_image9.png

では、2026年以降、CVCの勝敗はどこで分かれるのか。 鍵となるのは、極めてシンプルだ。 「投資できるか」ではなく、「実装できるか」 である。 AI、モビリティ、クライメートテック、産業DX―― どの領域でも技術そのものは急速にコモディティ化していく。 その中で差がつくのは、

・実証環境を提供できるか

・顧客に届けられるか

・スケールさせられるか

という点である。 言い換えれば、 「資本」ではなく「事業基盤」を持つCVCが勝つ時代である。

9. CVCは“第二の資本市場”を超える

CVCの台頭は、単に投資主体が増えたという話ではない。 それは、

・金融機関

・事業会社

・スタートアップ

の関係性そのものを再構築する動きである。

CVCは「第二の資本市場」とも呼ばれるが、実態はそれ以上だ。

資本、顧客、実証、販売、技術が一体化した実装型プラットフォームへと進化している。

そして、この変化を捉えられるかどうかが、

今後10年の競争力を大きく左右する。

CVCを「投資機能」として扱う企業と、

「事業変革装置」として使いこなす企業。

その差は、やがて埋めがたいものになるだろう。

参考文献・出典リンク

・SeedScope, “Startup Funding Trends in 2026: Venture Capital’s New Era.” https://seedscope.ai/blog/startup-funding-trends-in-2026-venture-capital-s-new-era

・Global Corporate Venturing, “Value of Corporate-Backed Startup Funding Doubles in First Half of 2025.” https://globalventuring.com/corporate/overview/ai-deals-corporate-investors-h1/

・Crunchbase News, “Global Venture Funding in 2025 Surged as Startup Deals and Mega-Rounds Returned.” https://news.crunchbase.com/venture/funding-data-third-largest-year-2025/

・GlobalData, “High-Value VC Deals Rise in 2025 Despite Decline in Overall Deal Volume.” https://assetphysics.com/high-value-vc-deals-rise-in-2025-despite-decline-in-overall-deal-volume-reveals-globaldata/

・Yahoo Finance, “2025 U.S. VC Deal Value Soared to $339.4 Billion, Says PitchBook.” https://finance.yahoo.com/news/2025-u-vc-deal-value-113120124.html

・CB Insights, “State of CVC Q1’25 Report.” https://www.cbinsights.com/research/report/corporate-venture-capital-trends-q1-2025/

・N. Wichert, “Corporate VCs Invest $129B in Startups, Driven by Strategic Themes.” LinkedIn Post. https://www.linkedin.com/posts/nwichert_value-of-corporate-backed-startup-funding-activity-7358193207874113536-hxiM

・KPMG, “Q4’25 Venture Pulse Report — Global Trends.” https://kpmg.com/xx/en/what-we-do/industries/private-enterprise/venture-pulse.html

・Chambers Global Practice Guides, “Venture Capital 2025 – Japan: Trends and Developments.” https://practiceguides.chambers.com/practice-guides/venture-capital-2025/japan/trends-and-developments

・INITIAL / Uzabase, “Growth Prospects for Trends in Japanese Startup Deals in First Half 2025.” https://initial.inc/articles/japan-startup-finance-2025h1-en

・INITIAL / Uzabase, 「選別と延長戦が進む 2025年スタートアップ資金調達動向」 https://initial.inc/articles/japan-startup-finance-2025

・JIC Research, “Global and Japan Venture Capital Market Update 2025 H1.” PDF. https://www.j-ic.co.jp/en/research/.assets/E_20250930_JIC_Research.pdf

・JBIC Today, “JAPANESE REGIONAL BANKS TAKE ON THE WORLD.” PDF. https://www.jbic.go.jp/en/information/today/image/jtd_202501.pdf

・FIRST CVC, “Supporting Startups Beyond ‘Regional Bank VC’: Fukuoka Financial Group.” https://www.firstcvc.jp/en/story/ffgvp-oohara

・FIRST CVC, “CVC Details: Yamanashi Chuo Bank.” https://www.firstcvc.jp/en/story/yamanashichuobank

・FIRST CVC, “CVC Details: Mitsubishi UFJ Financial Group.” https://www.firstcvc.jp/en/story/mufg

・Global Corporate Venturing, “KBank and MUFG Launch Funds to Invest in AI.” https://globalventuring.com/corporate/fundraising/ai-funds-for-kbank-and-mufg/

・Speeda / Uzabase, 「Japan Startup Finance 2025 速報プレスリリース」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000276.000010548.html

※本インタビュー企画・記事執筆は株式会社CFスタートアップパートナーズよりEXPACT株式会社が委託を受け、実施しております。

トップに戻る